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東京地方裁判所 平成元年(ワ)14359号 判決 1992年12月21日

原告(反訴被告)

高岡重太

右訴訟代理人弁護士

吉田康

石川善一

鈴木高志

被告

清水建設株式会社

右代表者代表取締役

吉野照蔵

右訴訟代理人弁護士

川口嘉弘

被告(反訴原告)

株式会社昭英建築

右代表者代表取締役

北川悦郎

被告

今村耕太郎

右両名訴訟代理人弁護士

小林資明

田中隆

主文

一  被告清水建設株式会社及び被告株式会社昭英建築は原告に対し、各自金一九七万六一五〇円及びこれに対する昭和六〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告清水建設株式会社は原告に対し、金八二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告清水建設株式会社及び被告株式会社昭英建築に対するその余の請求並びに被告今村耕太郎に対する請求をいずれも棄却する。

四  反訴被告は反訴原告に対し、金三二七万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五六年二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は、原告(反訴被告)と被告清水建設株式会社及び被告(反訴原告)株式会社昭英建築との間においては、被告清水建設株式会社及び被告(反訴原告)株式会社昭英建築に生じた費用の一〇分の九を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告(反訴被告)と被告今村耕太郎との間においては、全部原告(反訴被告)の負担とする。

六  この判決は、原告(反訴被告)勝訴部分及び被告(反訴原告)株式会社昭英建築勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  請求

一  本訴

被告清水建設株式会社(以下「被告清水建設」という。)、被告株式会社昭英建築(以下「被告昭英建築」という。)及び被告今村耕太郎(以下「被告今村」という。)は原告に対し、各自金八五〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

主文第四項と同旨。

第二  当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1(一) 原告は、昭和五五年四月八日頃、被告清水建設との間で、原告を注文者、同被告を請負人とし、工事請負代金二億〇八〇〇万円、工事期間同年四月一日から同年一二月一五日までとする別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の建築請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。

(二) 被告昭英建築及び同今村は、昭和五四年一二月二〇日頃、原告との間で、本件建物建築に関する監理業務契約(以下「本件監理契約」という。)を締結した。

2 被告清水建設は、昭和五六年一月上旬頃、本件建物を完成し、原告にこれを引き渡した。

3 本件建物には、次の瑕疵が存在する。

(一) 鉄筋コンクリートの瑕疵(以下「瑕疵(一)」という。)

(1) 原告、被告清水建設間において、本件建物のコンクリートには細骨材として川砂及び川砂利を使用するという合意がなされていたにもかかわらず、実際には海砂及び海砂利が使用されている。

(2) そればかりではなく、契約書上、細骨材の絶乾重量に対する塩分の含有量は0.04パーセント以下とされていたにもかかわらず、実際には、本件建物のコンクリートの塩分含有量は右許容量を大幅に超えている。鉄筋コンクリート造りの建物において、塩分含有量の多い砂を細骨材として用いたコンクリートを使用した場合、内部にしみ込む水分と含有塩分との作用により鉄筋の腐食が進み、建物の強度が低下し、耐用年数が大幅に減少するが、本件建物は、塔屋(八階)を除く建物本体部分に、右許容量の二倍以上という許容量を大幅に超えた塩分を含有する粗悪なコンクリートが使用されている。その結果、本件建物は、通常であれば六〇年ないし八〇年は十分に使用に耐えうる建物本体の必要な強度が一〇年ないし二〇年程度で失われ、倒壊の危険を有する建物となってしまった。

(3) なお、コンクリートの被り厚さとコンクリート中の鉄筋の発錆は深い関係にあり、仮にコンクリート中の塩分含有量が多くても、コンクリートの被り厚さが鉄筋の防錆上有効な働きをすることになるが、本件建物の床、柱、壁のコンクリートの被り厚さは、原告、被告清水建設間において合意された仕様内容(仕上げのない床スラブは三五ミリメートル、柱及び壁は四〇ミリメートル)に比較して劣っている。また、コンクリート表面に気密性のある表面仕上材を施工することは、コンクリートの劣化を防止するうえで考慮すべき要素の一つではあるが、本件建物においては、外装タイルにひび割れが目立ち、割れた部分から雨水が浸入して遊離石灰が流れ出している部分もあり、内装のタイルも大量にひび割れが発生して塩分を含む雨水が浸入している状況にあり、また、本件建物の外壁は、タイルで覆っていない部分が表面積にして過半を占めている状況にある。

(二) エレベーターホール窓周りのカラータイルのひび割れ(以下「瑕疵(二)」という。)

本件建物の二階、四階ないし七階のエレベーターホール窓周りのカラータイル合計四四枚がひび割れしている。その内、二階部分の一六枚は外部応力により発生し、四階ないし七階部分の二八枚はタイルの接着施工の手抜きにより発生したものである。

(三) 二階及び四階部分の雨漏り(以下「瑕疵(三)」という。)

二階及び四階では、強風により雨水が吹き上げられて、窓のサッシの部分から雨漏りが発生している。本件建物のある那覇市においては、七、八階建のビルを建築した場合、強風による雨水の吹上げは日常的に起こり得るものであるところ、本件建物においては、設計図と異なるサッシが納品、施工され、強風による雨水の浸入を防止できず、雨水浸入の被害を次第に増大させ続けている。

(四) 屋上の配管の被覆工事の不完全(以下「瑕疵(四)」という。)

屋上に配置されている冷却水管の一部分(水抜き栓部分)に被覆がなく、塗装もされておらず、被覆されている部分もテープ巻きが非常に雑なものであり、そのため、既に一部で剥離が起こり、冷却水管が発錆している。また、電線管は塗装されておらず、露出管のままである。このままでは、沖縄では上空を塩水が飛ぶことが多いので、発錆が促進される危険が強い。

(五) 雨樋工事の不完全(以下「瑕疵(五)」という。)

本件工事設計図では、雨水は屋上から二本の雨樋を通り、直下の四五〇ミリメートル×四五〇ミリメートルの集水桝に入り、そこから道路側溝へ直径一五〇ミリメートルのヒューム管につながれて排水されることとなっていた。しかるに、被告清水建設の手抜き工事により、建物正面に向かって右側の雨樋は地上二〇センチメートルのところで途切れ、垂流しになっている。建物正面に向かって左側の雨樋も同様に途切れ、水はマンホール周辺に溜まって、水溜まりになっている。

(六) 屋上の排水のための水勾配が適切にとられていない瑕疵(以下「瑕疵(六)」という。)

屋上は、設計図では八九〇〇ミリメートルのスパンで八〇ミリメートルの水勾配がとられていたが、実際には排水が不良で、雨上がりに雨水が屋上に溜まってしまう。防水工事の施されたコンクリートの屋上であっても、水溜まりができたままであると、特に沖縄のような暑い地方では、晴天になってから水溜まり部分と他の部分とで大きな温度差が生じ、特定の部分に再三にわたってこの状態が続けば、防水層に影響が生じ、通常よりも早く傷みが生じてくる。

(七) 屋上給水槽下の清掃不能及び右部分に水勾配が適切にとられていない瑕疵(以下「瑕疵(七)」という。)

屋上給水槽下の部分は手が全く届かず、清掃することができない。また、右部分は、設計図上二〇分の一の水勾配がとられていたが、実際の工事ではこれがとられていない。

(八) エレベーターホールメータースペース部分の防火区画工事の瑕疵(以下「瑕疵(八)」という。)

本件建物は、各階が水平に防火区画され、かつ、各階ではエレベーターホールと貸室部分とが完全に防火区画される設計になっていた。しかるに、エレベーターホールと貸室との区画であるメータースペースを囲っているコンクリートブロックの上部が天井まで届いておらず、空間、隙間があり、防火区画されていない。右部分は、ガス管、電気などが上下階に通じており、この部分が防火区画されていないと、他の階に危険を及ぼすおそれが生ずる。

(九) 外壁タイルの亀裂剥落(以下「瑕疵(九)」という。)

本件建物の外装タイルには、ひび割れたり剥離したところが多くみられる。これは施工上の瑕疵である。

4 被告昭英建築及び被告今村は、以下のように、必要とされている監理業務を全く行わなかった。

(一) 原告に対しては、本件建物に使用するコンクリートに関し、塩分を殆ど含有していない川砂及び川砂利を使用する旨約しながら、原告の何らの了解もないのに、建築業者に対し「JIS規格に適合する海砂、海砂利」の使用を認め、かつ、現実に被告清水建設が許容量を大幅に上回る塩分を含有する海砂及び海砂利を使用して粗悪なコンクリートを本件建物に使用することを漫然と放置した。

(二) エレベーターホール窓周りのカラータイルの接着施工の手抜きを漫然と放置した。

(三) 設計図と異なるサッシの納品及び施工を漫然と放置し、かつ、強風による雨水の浸入防止に必要な対策を全く行わなかった。

(四) その他、必要な監理業務を怠り、瑕疵(四)ないし(九)を発生せしめた。

5 原告は、前記瑕疵により次の損害を被った。

(一) 瑕疵(一)による損害

右瑕疵は、本件建物の耐用年数を少なくとも半減せしめるものであり、原告は、少なくとも本件建物の建築請負代金二億〇八〇〇万円の二分の一相当額を超える損害を被った。

(二) 瑕疵(二)による損害

タイルやミネラルトーン(天井張り部材)の経年変化(色焼け)等が生じているため、むらが出るのを防止するため、ひび割れの生じた階のカラータイル全部(八〇枚)及び雨漏りの生じた階(三、四階)の天井張り部材全部の張替えを必要とし、かつ、雨漏り部分及びその周辺部分の鉄製下地骨組み及びビス類のサビ落とし、サビ止め、取り替え等を必要とし、更に雨水浸入防止のための改修工事を必要とするものであり、右工事に要する費用は五〇〇万円を超える。

(三) 瑕疵(九)による損害

外壁タイルを補修するためには三一九万三〇〇〇円を要する。

(四) その他の瑕疵による損害

その他の瑕疵を補修するためには三〇〇万円を要する。

(五) 調査費用

原告は、瑕疵(一)を専門家の調査の結果初めて発見することができたものであり、右調査なくしては発見できなかった。瑕疵(二)及び(三)の原因及び対策についても同様である。したがって、右調査に要した費用は損害として算入されるべきであるところ、原告は右調査に五〇万円を要した。

(六) 弁護士費用

被告清水建設は、雨漏りにより被害を受けた天井部分の張替え及びひび割れたカラータイルの張替えを自らの負担で行う旨の回答を原告に寄せていたが、雨漏りの原因の究明と除去のための改修工事及び瑕疵(一)についてはこれを秘匿してごまかし続けようとしたものであり、原告は同被告に対する自己の権利を行使するために弁護士に依頼する必要があった。

しかして、原告は、本件につき、訴訟代理人に対し、着手金として一五〇万円を支払い、成功報酬として六〇〇万円の支払いを約した。

6 よって、原告は、被告清水建設に対しては、本件請負契約の債務不履行あるいは瑕疵担保責任に基づき、同昭英建築及び同今村に対しては、本件監理契約の債務不履行に基づき、連帯して、5(一)の損害のうち六九〇〇万円、同(二)の損害のうち五〇〇万円及び同(三)ないし(六)の各損害額の合計額八八一九万三〇〇〇円の一部八五〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告清水建設の認否

1 請求原因1(一)の事実は認める。ただし、契約書上の注文者は被告昭英建築である。

2 請求原因2の事実は認める。

3(一) 請求原因3(一)(1)の事実のうち、コンクリートの細骨材として海砂及び海砂利が使用されていることは認め、その余は否認する。同(2)の事実のうち、契約書上、細骨材の絶乾重量に対する塩分の含有量が0.04パーセント以下とされていたことは認め、その余は否認する。同(3)の事実のうち、コンクリートの被り厚さとコンクリート中の鉄筋の発錆は深い関係にあり、仮にコンクリート中の塩分含有量が多くても、コンクリートの被り厚さが鉄筋の防錆上有効な働きをすることになること及びコンクリート表面に気密性のある表面仕上材を施工することは、コンクリートの劣化を防止するうえで考慮すべき要素の一つではあることは認め、被り厚さが不足していることは否認する。被告清水建設の反論は以下のとおりである。

(1) 本件建物の鉄筋コンクリート工事に関する設計図特記仕様は、コンクリートに使用する細骨材中の塩分含有量を0.04パーセント以下としている(右数値は建設省指導の基準値と同値である。)ところ、本件建物のコンクリートに使用した細骨材中の塩分含有量は0.023パーセントであり、塩分含有量の点において瑕疵はない。

(2) ところで、コンクリート中の鉄筋の発錆にとって、塩分含有量の外に、被り厚さ(コンクリートの表面から鉄筋の表面までの距離)や仕上材などによって鉄筋の発錆に必要な酸素と水の供給がどの程度に遮断されているかが重要である。被りの厚さが十分な場合は、たとえコンクリート中の塩分の量が多い場合であっても、鉄筋の発錆は防がれるところ、本件建物のコンクリートの被り厚さは十分に確保されている。また、コンクリート表面に気密性のある表面仕上材を施工することは、コンクリートの中性化(コンクリートは骨材をセメントペーストで結合させたものである。セメントペーストには微細な空隙があり、空隙中の水はセメントとの水和反応で生成された水酸化カルシウムにより強いアルカリ性を示すが、空気中の炭酸ガスとの反応により、次第にアルカリ性が低下していく。これをコンクリートの炭酸化あるいは中性化という。ちなみに、鉄は、PH一一を下回ると発錆する。)を防止すると同時に、内部鉄筋の発錆に必要な空気や水分の浸入を妨げるため、鉄筋の発錆を防止する上で有効であり、これにより鉄筋コンクリート造建物の耐久性は向上するところ、本件建物の表面仕上げ材は、外装はレンガタイル打込及び吹付タイルを施工しており、エレベーターホール等共用部分の内装には、デザインタイル及び吹付タイルを施工している。このように、本件建物では、被り厚さが十分に確保され、さらに気密性のあるコンクリート表面仕上材を施工しているので、コンクリート中の鉄筋の防錆対策は有効な方法がとられているということができる。

(3) また、本件建物のコンクリート中の鉄筋には異形筋を使用しているので、コンクリート中の鉄筋に錆が生じても、右鉄筋のコンクリート付着強度を低下させるには至らない。鉄筋コンクリート造構造物に使用される鉄筋に構造上要求される基本的な性能は、引張性能とコンクリートとの付着強度であるが、異形筋の場合は、丸鋼とは著しく異なり、付着強度はグレーディング(錆程度)に影響されずほぼ一定しているからである。

(4) 更に、コンクリート構造物の耐用年数を問題とするとき、コンクリートの中性化がある深さにまで(例えば、コンクリート中の鉄筋の裏側まで)達する期間を問題にするのであるが、コンクリートの中性化は空気中の炭酸ガス濃度によって影響を受けるものの、コンクリート中の塩分含有量と中性化の速度は関係がない。

(5) したがって、仮に本件建物のコンクリートの一部の塩分含有量が原告主張のとおりであったとしても、本件建物の耐久性を減少するとは断定できない。

(二) 請求原因3(二)の事実のうち、原告主張のひび割れが存在することは認める。ただし、五階部分のカラータイルのひび割れはいわゆるヘアークラックで、極めて軽微なものである。また、ひび割れの原因に関する原告の主張は憶測の域を出ない。外部応力というのも定かではないが、仮にそれが壁面膨張によるものであれば、瑕疵とはいえない。仮に接着施工に欠陥があったとしても、接着が完全なタイルにもひび割れが生じているから、右ひび割れとの因果関係を欠くものである。タイル接着は、モルタルをタイル裏面全体に塗り付ける工法によったものであるが、これは普通に用いられている工法であって、手抜き工事ではない。

(三) 請求原因3(三)の事実のうち、原告主張の雨漏りがあることは認める。しかし、その原因に関する原告の主張は憶測の域を出ない。右サッシは設計仕様書と同一のものである。右サッシには設計仕様書にないアルミの当板を取り付けているが、それは、より一層雨水の吹込みを防止するためである。仮にサッシ部分から雨漏りが生じたとすれば、予測を超えた強風によるものと推認され、不可抗力というほかはなく、瑕疵とはいえない。また、右サッシ下部に用いられているゴムの経年変化も考慮されなければならない。

(四) 請求原因3(四)の事実のうち、屋上の配管の現状が原告主張のとおりであることは認める。しかし、原告は、本件建物の引渡を受けた後に本件建物の屋上に管理人室を増設し、その際に既設の冷却塔と冷却水ポンプを移設し、この時、盛り替えた冷却水配管の被覆がビニールテープ巻となったものである。電線管が塗装されていないのも右と同様である。右箇所について、被告清水建設が責任を負わないのは当然である。なお、同被告施工部分に関していえば、設計仕様はデンゾーテープ巻のみであったが、メンテナンス性を考慮して、その上にビニールテープを巻き、仕様書より改良している。ただ、屋上のことであるから、ビニールテープの剥離は避けられないが、原告において自ら注意し、必要に応じビニールテープを巻き替えれば発錆は防止し得る。また、排水用ゲート弁は凍結のおそれもなく、材質は黄銅であり性質上被覆の必要はないので、被覆を施していない。

(五) 請求原因3(五)の事実のうち、工事設計図の仕様が原告主張のとおりであること及び本件建物の雨樋が原告主張の所で途切れていることは認める。本件建物の前面道路は国道であり、雨水排水管を前面歩道側溝に直結配管することは禁止されているので、雨水の排水方法としては、現状のとおり雨樋の先端を地表部分で切断し、雨樋から流れ出た雨水が地表に沿って歩道側溝に自然に流入するようはかるほかはない。施工上の制約によるものであって、手抜き工事ではない。なお、本件建物の左右両側の建物外壁と隣地境界との間の空地部分(幅約五〇センチメートル)は、設計仕様書では砂利敷きとなっていたが、地表排水の効果が得られると考え、これをコンクリート叩きに改良した。

(六) 請求原因3(六)の事実は否認する。雨天の時、屋上の一部に少量の水溜まりができる程度のものであるから、建物の評価に全く影響を及ぼすものではなく、瑕疵とはいえない。

(七) 請求原因3(七)の事実のうち、雨天の時屋上給水槽下に少量の水溜まりができること及び掃除がしにくいことは認める。しかし、それが工事の瑕疵といい得るかどうか疑わしく、極めて軽微なものであるから、瑕疵とはいえない。

(八) 請求原因3(八)の事実のうち、エレベーターホールと貸室部分が防火区画になっていることは否認する。右部分は防火区画になっていない。メータースペースのコンクリートブロックはメータースペースを囲むのが主目的であるから、仮に右ブロックと天井との間にわずかな隙間があったとしても、格別手抜き工事ではなく、瑕疵というのは当たらない。エレベーターホールから各貸室に入る扉の設備は、各入居者が負担する工事である。

(九) 請求原因3(九)は争う。

4 請求原因5の事実は不知。ただし、補修工事に別紙補修工事費試算表記載の費用を要することは認めるが、右試算表記載の工事の中には、必ずしも工事の瑕疵とは認め難いものが含まれている。

三  請求原因に対する被告昭英建築及び同今村の認否

1 請求原因1(一)の事実は認める。同(二)の事実のうち、被告昭英建築が原告と本件監理契約を締結したことは認め、被告今村が原告と本件監理契約を締結したことは否認する。被告今村は、同昭英建築の履行補助者として本件建物建築工事の監理業務に携わったものである。

2 請求原因2の事実は認める。

3 請求原因3の事実に対する認否は、被告清水建設の認否と同様である。

4 請求原因4の事実は否認する。

5 請求原因5の事実は不知。

四  被告清水建設の抗弁

本件請負契約において、同被告の瑕疵担保責任の存続期間は、本件建物引渡の日から、屋根の防水については一〇年、外壁からの漏水については三年、それ以外の瑕疵については二年と定められており、右各期間は経過した。

五  被告昭英建築の抗弁

1 本件請負契約において、被告清水建設の瑕疵担保責任の存続期間は、本件建物引渡の日から、屋根の防水については一〇年、外壁からの漏水については三年、それ以外の瑕疵については二年と定められているところ、右各期間は経過した。

2(一) 設計監理者の業務は、設計図書(建築物の建築工事実施のために必要な図面及び仕様書)を作成し、工事が設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することであり、設計監理者の具体的な職務内容としては、①工事契約に関する協力、②建築詳細図の作成、③施工図等の検査及び承認、④工事の指導、⑤現場監督員の指揮、⑥変更工事の処理、⑦中間及び最終支払いの承認等を挙げることができる。

右のような設計監理者の業務内容に照らすと、設計監理契約の法的性質は、請負契約及び準委任契約の混合契約であると解すべきであり、設計監理契約から発生する損害賠償請求権の存続期間については独自の見地から解釈によって決定すべきものであるところ、右損害賠償請求権は監理業務終了のときから一年をもって消滅するものと解するのが妥当である。けだし、そもそも監理者の責任は、請負人の責任との関係において補充的責任たる性質を有するものであり、工事請負人の瑕疵担保責任が消滅した後においても、監理者の責任が存続するのは均衡を失し、合理的根拠を欠くからである。

(二) 監理業務終了のときから一年が経過した。

六  被告清水建設の抗弁に対する原告の認否

認める。

七  被告昭英建築及び同今村の抗弁に対する原告の認否

1 抗弁1の事実は認める。

2 抗弁2(一)は争う。原告が被告昭英建築及び同今村と締結した契約は、設計監理契約ではなく、単なる監理契約である。そうすると右契約の法的性質は基本的には準委任契約であるというべきである。仮に設計監理契約であるとしても、右契約に基づき被告昭英建築及び同今村の担った業務内容は主として監理行為であるから、右契約の法的性質は準委任を基本とするものであり、右契約の解釈に当たっても準委任を基本としつつ具体的に判断すべきである。したがって、右契約に基づく監理者の責任の存続期間は一〇年と解するのが相当である。瑕疵担保責任とのバランスを考慮しても、請負人の瑕疵担保責任が雨漏りについては三年、その他については二年存続すること、被告昭英建築と請負人たる同清水建設とは原告に対して連帯責任を負う関係にあることなどから、被告昭英建築の責任の存続期間を短縮するとしても右三年ないし二年の期間を下回ることは、請負人の責任との均衡を失するので妥当でない。

八  被告清水建設の抗弁に対する再抗弁

1 昭和五六年一〇月頃から、本件建物の四階エレベーターホール天井付近に雨漏りが発生し、また、五階及び二階のエレベーターホールのカラータイルにひび割れが発生した。そこで、原告は、被告清水建設に対して右瑕疵の補修を求め、昭和五八年五月一二日には、内容証明郵便をもって補修を要求した。これに対し、同被告は補修の責任を認め、補修工事を行うことを約した。したがって、仮に一旦は責任期間短縮の特約が成立したとしても、それは同被告が補修工事を約したことにより消滅している。

2 コンクリートの塩分含有量の大幅な超過という、建物の価値を半減以下にさせてしまうような、きわめて重大な隠れた瑕疵は、本件請負契約上の責任期間短縮の特約の内容には含まれていない。そのように解釈しなければ、重大な隠れた瑕疵について、専門的知識を有して営業活動を行っている建築請負会社を無制限に免責するものとなり、大きな被害を消費者に一方的に負担させる結果となる。

九  再抗弁に対する被告清水建設の認否

1 再抗弁1の事実のうち、原告から昭和五九年一月頃原告主張の要求があり、被告清水建設が同年二月頃原告主張の回答をしたことは認める。

2 同2は争う。

(反訴について)

一  請求原因

1 被告昭英建築は、建築の設計監理等を業とする株式会社である。

2 原告は、昭和五四年一二月二〇日、株式会社日建ハウジングシステムに対し、本件建物に関する設計業務を委嘱し、その際、その設計業務の一部及び監理業務を報酬三二七万六〇〇〇円の約定で被告昭英建築に委嘱した。

3 原告及び被告昭英建築は、その後、右報酬支払いの履行期を、昭和五五年四月及び同年九月の各末日限り各一〇〇万円、昭和五六年一月末日限り一二七万六〇〇〇円とすることを合意した。

4 被告昭英建築は、右監理業務を遂行し、昭和五五年一二月一八日本件建物は竣工し、原告に引き渡された。

5 よって、被告昭英建築は、原告に対し、前記2及び3の約定に基づき、監理報酬三二七万六〇〇〇円及びこれに対する最終の履行期の翌日である昭和五六年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実のうち、原告が被告昭英建築に対し本件建物の設計業務の一部を委嘱したこと及び監理業務について報酬支払いの合意をしたことは否認する。

原告は、当初、本件建物の敷地(以下「本件土地」という。)を有料駐車場として利用することを計画していたが、昭和五四年一一月中旬から一二月初旬にかけて、被告昭英建築は、原告に対し、本件土地上にビルを建築することを強く勧め、その際、本件土地の隣接地に「昭英ビル」の建築を計画しているが、もし二棟のビルの建築工事を一度に発注すれば、別個に発注する場合に比べて大幅な値引きを工事会社に要求できるから、双方にとって大きな利益となる、原告がビル建設工事の同時進行に同意するならば、その見返りとして原告のビル工事の指導及び監理業務を無償で提供すると申し出て、原告は、右申出を承諾したものである。したがって、同被告の本件監理業務を無償とする旨の合意が成立した。

3 請求原因3の事実は否認する。

4 請求原因4の事実のうち、被告昭英建築が監理業務を遂行したことは否認する。

第三  証拠<省略>

理由

第一本訴について

一被告清水建設及び同昭英建築の責任

1(一)(1) 被告清水建設が昭和五五年四月八日頃原告から本件建物の建築を請け負い(本件請負契約の成立)、昭和五六年一月上旬頃これを完成して原告に引き渡したこと及び本件請負契約に被告清水建設の瑕疵担保責任の存続期間を、本件建物引渡の日から、屋根の防水については一〇年、外壁からの漏水については三年、それ以外の瑕疵については二年とする特約があることは、当事者間に争いがない。

(2) なお、原告は、同被告に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求のほかに、選択的に本件請負契約の不完全履行に基づく損害賠償請求をしているが、請負人の瑕疵担保責任に関する民法第六三四条以下の規定は、単に売主の担保責任に関する同法第五六一条以下の特則であるのみならず、不完全履行の一般理論の適用を排除するものと解すべきであり、瑕疵担保責任を問うのはともかく、不完全履行の責任は問い得ないというべきである。何故ならば、請負は請負人による仕事の完成を目的としており、完成された仕事の瑕疵は、単に材料の瑕疵からだけではなく、請負人の仕事のやり方の不完全なことによっても発生するものであるところ、請負契約についての瑕疵担保責任の規定は瑕疵を生じた理由について何ら限定を加えておらず、右規定は、右のような請負における瑕疵の特殊性に着眼して特別な内容を定めたものと解すべきであるからである。

(二)(1) 被告昭英建築が昭和五四年一二月二〇日頃原告に対し本件建物建築に関し監理業務を行うことを約したことは、原告、同被告間に争いがない。

(2)  なお、監理契約に基づき建築士が負担する債務は、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認し、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに工事施工者に注意を与え、工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告すること等を内容とするものであり、それは建築主のために一定の事務を処理することを内容とするものであるから、監理契約の法的性質は準委任契約であると解すべきである。そうである以上、その債務不履行に基づく損害賠償請求権は原則として監理終了の時から一〇年(商法第五二二条の適用がある場合は五年)で時効によって消滅することになるが、それ以前に請負人の瑕疵担保責任が除斥期間の経過によって消滅した場合は、その工事瑕疵に関する監理者の責任も同時に消滅すると解するのが相当である。何故ならば、監理者は、建築主の建築物完成の目的実現に寄与すべく、工事が設計図書のとおりに実施されるよう請負人の施工を監理するものであるから、その責任は請負人の責任との関係において補充的責任たる性質を有するものであるところ、瑕疵を生じさせた請負人の瑕疵担保責任が消滅した後においても監理者の責任が存続することは、均衡を失することになるし、また、建築物は時間の経過によってその瑕疵の存否の判断が困難になる場合が多いが、請負人の瑕疵担保責任が消滅した後においても、監理者の責任が監理終了の時から一〇年間(あるいは五年間)は消滅しないことになると、監理者の立証に支障を生じるおそれがあるからである。

(三) 以上を前提にして、被告清水建設及び同昭英建築の責任について、以下順次検討する。

2 瑕疵(一)(鉄筋コンクリートの瑕疵)について

(一)  <書証番号略>、証人中村幸安(第一、二回)、同下荒磯隆及び同上条一夫の各証言、原告本人尋問の結果、被告昭英建築代表者尋問の結果、検証の結果(昭和六二年四月一四日実施)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件建物の見積段階における見積要項特記仕様書では、コンクリートの細骨材として川砂及び川砂利を使用することになっていたが、沖繩においては、川砂あるいは川砂利を入手するのが困難である(九州か台湾から運んでくるしかない。)ことから細骨材として川砂及び川砂利を使用することはほとんどなく、海砂及び海砂利を使用するのが一般的であることなどから、日本建築学会所定の規格に適合すること(細骨材の絶乾重量に対する塩分の含有量を0.04パーセント以下にすることを意味する。)を条件に、細骨材が海砂及び海砂利に変更され、これを前提に見積りがなされて、本件請負契約が締結された。その結果、本件建物のコンクリートには、細骨材として海砂及び海砂利が使用された(海砂及び海砂利を使用した事実は、当事者間に争いがない)。

(2) このように、本件建物のコンクリートについては、細骨材の絶乾重量に対する塩分の含有量を0.04パーセント以下にすることを条件として海砂及び海砂利の使用が認められた(なお、<書証番号略>に使用コンクリートが「特注品」とされ、その一立方メートル当たりの単価が一万四八〇〇円とされていることが川砂及び川砂利の使用を意味するものとは認められない。)のであるが、実際には、本件建物の九個所から採取した試験体のうち四個所(一、四、六階の階段室スラブ、三階階段室の壁)において、細骨材の塩分含有量が0.04パーセントを超えていた。

(3) ところで、鉄筋コンクリートは、鉄筋が錆びないで、コンクリートとの付着応力を発揮し、所要断面を備えていることによって、所定の応力を発揮するものである。コンクリートは、打設直後はセメントの水和生成物である水酸化カルシウムなどにより強いアルカリ性(PH一二ないし一三程度)を示しており、鉄筋は強いアルカリ性下では発錆しにくいので、コンクリート中の鉄筋は腐食(発錆)から防がれている。しかし、コンクリートは表面から次第に空気中の炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムとなり、アルカリ性が低下していく(これを中性化ないし炭酸化という)。中性化が鉄筋まで達し、コンクリートのPHが一〇程度になると、鉄筋は腐食しやすい状態となる。そして、鉄筋が腐食すると、著しい体積膨張をするため、被りのコンクリートに亀裂や剥落を生じ、この部分から水や空気が侵入して鉄筋の腐食を促進し、鉄筋コンクリート構造物の耐力が低下することになる。このような観点から、鉄筋コンクリート構造物の耐用年数に関しては、コンクリートの中性化が鉄筋の裏側まで達する年数であるとする説が支配的である。

(4) このように、鉄筋の腐食程度を支配する最大の因子はコンクリートの中性化であるとされているが、このコンクリートの中性化と塩分含有量の間に有意な関係は認められておらず、本件建物においても、細骨材として川砂及び川砂利使用の前提で算定式によって算出した中性化の程度と実際の中性化の程度はほぼ同様であり、塩分含有量の影響は認められない。

(5) 塩分含有量が関係するのは、中性化が鉄筋に到達してからである。一般的に、塩分含有量が多くなるにしたがって腐食減量や錆面積率で表現された錆の程度は増大していく傾向がある。しかし、錆の程度は塩分含有量のみでは定まらず、コンクリートの配合(水・セメント比)、被り厚さ、仕上材の有無、構造物が置かれている環境、メンテナンス等が影響を及ぼす。

(6) したがって、仮にコンクリート中の塩分含有量が多くとも、コンクリートの中性化の速度を抑制するか、鉄筋の発錆自体を抑制することができれば、鉄筋コンクリートの耐力を維持することが可能となる。そのため、コンクリートの被り厚さを十分に確保することやコンクリートの表面に密着する気密性のある仕上材を施すことが有効である。コンクリートの被り厚さを十分に確保すれば、鉄筋まで中性化が及ぶ期間が長くなるし、気密性のある仕上材を施せば、炭酸ガスの侵入が抑制されるため中性化が抑制され、また、酸素や水分の侵入が抑制されるため発錆自体が抑制されるからである。また、防錆剤の使用も発錆自体を抑制する上で効果的である。

(7) 本件建物においては、防錆剤は使用されているが、以下のように、コンクリートの被り厚さが不足している個所があり、また、コンクリートの表面仕上げもされていない個所がある。

まず、本件建物の被り厚さであるが、設計仕様書(<書証番号略>)上、土に接しない部分のコンクリートについて、仕上げのない床スラブの被り厚さは三五ミリメートル、屋内部分の柱や壁の被り厚さは四〇ミリメートルとされている。右数値の被り厚さがあれば、本件建物の耐用年数に問題はない。しかしながら、実際には、二階床スラブ下側(一階天井)を二六個所調査した結果被り厚さは二〇ミリメートルないし二七ミリメートル、平均23.3ミリメートルとなっており、六階床スラブ下側(五階天井)を一個所調査した結果も被り厚さは一一ミリメートルであった。

また、本件建物は、壁、床等に仕上げが施されていない個所がある。すなわち、柱は、階段、エレベーター室周りの内・外以外の柱は仕上げがない。床は、エレベーター室のスラブ以外のスラブには仕上げがない。梁には全く仕上げがない。壁は、階段室及び貸室の室内面に仕上げがなく、外壁に使用されている外装タイルは、ところどころで割れ、一部剥落を生じている個所もある。

(二)  以上の事実によれば、本件建物の鉄筋コンクリートの細骨材として海砂及び海砂利が使用された点については、契約に従ったものであるから、何ら瑕疵があるとはいえないが、コンクリートに規定の含有量を上回る塩分が含まれている部分がある点及びコンクリートの被り厚さが不足している部分がある点は、いずれも明らかに契約の趣旨に副わないものであり、被告清水建設のした工事にはこの点において瑕疵があるといわざるを得ない。

しかして、コンクリートの被り厚さ不足はコンクリートの中性化に影響を及ぼすものであり、中性化が鉄筋に到達した後には、コンクリート中の塩分が鉄筋の発錆に影響を及ぼす要因となることは前記のとおりである。

ところで、コンクリートの被り厚さ不足による中性化促進が本件建物の耐用年数にいかなる影響を及ぼすかについて、証人中村幸安(第二回)は、本件建物は平成二年五月三〇日現在でおおよそ一三年ないし二六年の耐用年数しかなく、大蔵省令所定のいわゆる税法上の耐用年数五〇年を元数とした場合、本件建物の耐用年数は一四年ないし二七年短縮されたことになる旨証言している(<書証番号略>も同旨)。

しかし、前記のような限られた調査結果だけに基づいて本件建物の残存耐用年数を算定しようとすることの当否はしばらく措くとしても(<書証番号略>によれば、設計仕様書上、本件建物の土に接しない部分の柱、壁、梁の被り厚さは、屋内部分及び仕上げのある屋外部分で四〇ミリメートル、仕上げのない屋外部分で五〇ミリメートル、土に接する部分の柱、壁、梁、床スラブの被り厚さは五〇ミリメートル、基礎スラブの被り厚さは七〇ミリメートルとされているが、それが実際に不足していることを示す証拠はまったくない。)、<書証番号略>及び中村証人の証言によれば、コンクリートの被り厚さ不足による中性化と建物の耐用年数の関係を定量的に算定する方式がいくつか提唱されていることが認められるものの、いずれも決め手に乏しく、確立されたものとは認め難いばかりでなく、同証人が残存耐用年数が不当に低く出るきらいがあるとして採用しなかった清水建設株式会社研究所編著にかかる「既存建物の構造診断法」の算式(ちなみに、この算式は、他の算定方法と異なり、コンクリートの被り厚さをも入れた数式を用いており、その点で合理的な考え方を含むものと考えられる。)によっても、コンクリートの中性化が鉄筋の裏側まで達する年数をもって鉄筋コンクリート構造物の耐用年数とする前記支配的見解に従い、中村証人の調査結果による本件建物二階床スラブ下側の被り厚さの平均値23.3ミリメートルを用いて、本件建物の残存耐用年数を算出すると、約四八年という結果が得られるのであって、これらのことを考え併せると、本件建物の残存耐用年数に関する<書証番号略>及び中村証人の証言を直ちに採用することはできないものといわざるを得ない。

のみならず、<書証番号略>、証人中村幸安の証言(第一、二回)及び弁論の全趣旨によれば、本件建物は、屋内ならコンクリート面に塗膜を造ることあるいは張物をすることによって、屋外ならコンクリート面に性能のよい塗膜を造ることあるいはタイル等を張ることによって炭酸ガスの侵入を抑制し、コンクリート中性化を抑制することが可能であり、そうすれば耐用年数の短縮を抑止することが可能であることが認められる。なお、前述のように外装タイルはところどころで割れ、一部剥落を生じているが、<書証番号略>及び証人中村幸安の証言(第二回)によれば、タイルの内側に塩分を含んだ水が浸入したことがそもそもの原因であることが認められるのであるから、当該個所のタイルを替え、雨水が浸入しないような処置(タイルの周りに弾性シーラントを充填する。)をすれば補修が可能であり、また、<書証番号略>によれば、本件建物のコンクリート壁には数本の亀裂が存在するが、右亀裂をVカット又はUカットして、そこにエポキシ系樹脂を注入すれば補修できることが認められる(この程度の補修は鉄筋コンクリート造建物一般に必要なものであり、ほぼ一〇年に一度かかる補修を加えて初めて耐用年数を全うすることができるものであることは、社会通念上明らかである)。

とすれば、本件建物の鉄筋コンクリートには前述のような瑕疵があるものの、その補修は可能であり、補修方法はさほど困難を伴うものとはいえないから、右瑕疵は、原告が主張するように、請負契約上の瑕疵担保責任短縮の特約の適用を排除するような「きわめて重大な隠れた瑕疵」ということはできない。

しかして、原告が本件建物の引渡の日から二年以内に右瑕疵の修補やこれに代わる損害賠償を求めたことの主張立証がないから、原告の被告清水建設及び同昭英建築に対する右瑕疵に基づく損害賠償請求権は、約定の二年の除斥期間の経過によって消滅したというべきである。

3 瑕疵(二)(エレベーターホール窓周りのカラータイルのひび割れ)について

(一)  本件建物の二階、四階ないし七階のエレベーターホール窓周りのカラータイル合計四四枚がひび割れしていることは、当事者間に争いがない。そして、<書証番号略>及び証人中村幸安の証言(第一、二回)によれば、二階部分のカラータイルのひび割れは、タイルの下地のモルタルが異常に多い塩分を含み、また、使用された砂に貝殼等の異物が異常に多く含まれているためモルタルに亀裂が発生し、その上に張ってあるタイルを割ったものであり、四階ないし七階部分のカラータイルのひび割れは、タイル若しくは接着材の欠陥又は接着の施工方法(タイルの周辺部に接着材が回りきっていない。)に原因があることが認められ、これは、建築工事上の瑕疵に当たるというべきである。

(二)  ところで、前述のように、被告清水建設の瑕疵担保責任の存続期間は、屋根の防水及び外壁からの漏水以外の瑕疵については本件建物引渡の日から二年と合意されているところ、原告が同被告に対し右瑕疵の修補を本件建物の引渡の日から二年以内に請求したことを認めるに足る証拠はない。したがって、右除斥期間の経過によって被告昭英建築の損害賠償債務は消滅したことになる。

しかしながら、被告清水建設は、昭和五九年二月頃、ひび割れしたカラータイルの張替補修を原告に約しており(原告、同被告間に争いがない。)、原告に対して新たな債務の負担を約したものとみることができるから、同被告はその補修に代わる損害賠償責任を免れないものというべきである。

4 瑕疵(三)(二階及び四階部分の雨漏り)について

(一)  本件建物の二階及び四階部分に雨漏りがみられることは当事者間に争いがなく、<書証番号略>及び証人中村幸安の証言(第一、二回)によれば、サッシ周りのコーキングやパッキングが不十分であるために、雨が吹きつけるとサッシ下端から雨水が吹き上げてくるのと、サッシ周りの充填モルタルが貝殼等の異物を異常に多く含んでいるため簡単に水を吸い上げることから、サッシの周りから雨が滲んでくるのが、右雨漏りの原因であると推認される。

なお、被告清水建設及び同昭英建築は、サッシ部分からの雨漏りは予測を超えた強風によるもので不可抗力というほかはなく、また、サッシ下部に用いられているゴムの経年変化も考慮されなければならない旨主張するが、前掲各証拠、証人砂川玄徳の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、雨漏りは本件建物の完成後一年も経たない昭和五六年秋頃から発生し始め、その後度々生じていることが認められるのであり、雨漏りの原因が不可抗力ないしサッシ下部のゴムの経年変化とは考えられず、同被告らの右主張は失当である。とすれば、右雨漏りは建築工事上の瑕疵に当たるというべきである。

(二)  ところで、右瑕疵は外壁からの漏水に当たるところ、前述のように、外壁からの漏水についての瑕疵担保責任の存続期間は本件建物引渡の日から三年であるが、<書証番号略>及び原告本人尋問の結果によれば、原告は遅くとも昭和五八年五月に被告清水建設に対し右瑕疵の修補を請求していることが認められるから、同被告は瑕疵担保責任としての損害賠償義務を免れない。また、被告昭英建築は、右瑕疵が同被告の責めに帰し得ない事由によって生じたことについて立証がないので、本件監理契約の債務不履行に基づく損害賠償義務を免れない。

5 瑕疵(四)ないし(九)について

前述のように、原告、被告清水建設間において、同被告の瑕疵担保責任の存続期間は、屋根の防水及び外壁からの漏水を除く瑕疵については本件建物引渡の日から二年と合意されているが、瑕疵(四)ないし(九)はいずれも「屋根の防水及び外壁からの漏水を除く瑕疵」に該当する。そして、原告が同被告に対し、本件建物引渡の日から二年以内に瑕疵(四)ないし(九)について修補ないし損害賠償を請求したとの主張も立証もない。

したがって、仮に瑕疵(四)ないし(九)が建築工事上の瑕疵に該当するとしても、同被告の瑕疵担保責任は本件建物引渡の日から二年以上経過したことによって消滅し、同時に被告昭英建築の本件監理契約の債務不履行に基づく損害賠償債務も消滅したというべきである。

6 被告清水建設及び同昭英建築が賠償すべき損害額

(一)  弁論の全趣旨によれば、前記認定のエレベーターホール窓周りのカラータイルのひび割れの補修に必要な費用は、工事費七五万円、諸経費七万五〇〇〇円(工事費の一〇パーセント)、合計八二万五〇〇〇円であり(以上の補修については、<書証番号略>も同額の損害を試算している。)、二階及び四階部分の雨漏りの補修に必要な費用は、仮設工事九〇万二〇〇〇円、サッシ工事八一万二五〇〇円(壁軸回転窓取替二個所で二〇万円、その他六一万二五〇〇円)、天井補修工事二個所で八万二〇〇〇円、諸経費一七万九六五〇円(工事費の一〇パーセント)、合計一九七万六一五〇円(右損害の範囲では、被告清水建設も同様の試算をしている。別紙補修工事費試算表参照。)と認めるのが相当である。

なお、<書証番号略>の補修工事費用の試算結果は、原告が本訴において瑕疵と主張していないものや、被告清水建設及び同昭英建築が責任を負ういわれのないものを含んでおり、また、同被告らが責任を負うものについても補修の範囲を超える工事内容に基づいて計上されているので、その部分を採用することはできない。

(二)  したがって、被告清水建設が賠償すべき損害額は合計二八〇万一一五〇円、同昭英建築が賠償すべき損害額は合計一九七万六一五〇円である。

(三)  なお、原告は損害に調査費用及び弁護士費用を含めてその賠償を請求しているが、弁論の全趣旨によれば、請負人たる被告清水建設は、原告が本件建物の調査を依頼したり、訴えを提起したりする以前から、エレベーターホール窓周りのカラータイルのひび割れ及び雨漏りの補修を約束していたにもかかわらず、原告がその履行を拒絶していたことが認められるから、原告主張の右損害は、被告清水建設及び同昭英建築が責任を負うべき瑕疵と相当因果関係がないというべきである。

二被告今村の責任

<書証番号略>、証人上条一夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告が本件建物の建築に関し監理契約を締結したのは被告昭英建築だけであり、被告今村は、被告昭英建築の管理建築士として実際に監理業務を行った履行補助者に過ぎないことが認められる。

とすれば、右監理契約の債務不履行を理由とする原告の同被告に対する本件損害賠償請求は理由がない。

第二反訴について

一被告昭英建築が建築の設計監理等を業とする株式会社であることは、当事者間に争いがない。

二被告昭英建築が約した業務の内容

被告昭英建築が昭和五四年一二月二〇日頃原告に対し本件建物建築に関し監理業務を行うことを約したことは、当事者間に争いがなく、<書証番号略>及び証人合田久雄の証言によれば、同被告は、監理業務だけではなく、一部設計業務(設計図書作成前の調査)を行うことを約したことが認められる。

三報酬支払いの約定の有無

(一)  原告は、被告昭英建築が無償で監理業務を行う約束であった旨主張し、それを理由付ける事実として、同被告から工事完了まで監理報酬の請求がなかったこと及び原告、同被告間の合意書(<書証番号略>)に同被告の監理業務は無償である旨明文化していることを主張している。しかし、<書証番号略>、被告昭英建築代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告昭英建築は、本件建物の完成前から原告に対し現場監理費等の請求をし、原告はその支払いをしており、また、同被告主張の最終の弁済期からさほど経過していない昭和五六年二月二〇日に、設計監理費全額の請求をしていることが認められるのである。また、原告、被告昭英建築間の合意書(<書証番号略>)の「同被告が原告のために同被告名義で行う行為につき名目の如何を問わず原告に対し報酬を請求しない。」旨の約定(第6項)は、本件建物の建築確認申請手続等を被告昭英建築が原告のために同被告名義で行うことを約した第3項の規定を受けたものであることが明らかであって、監理業務に関するものとは到底解されない。

(二)  かえって、<書証番号略>、証人上条一夫及び同合田久雄の各証言、被告昭英建築代表者尋問の結果によれば、被告昭英建築主張のとおりの報酬約定があったことが認められる。右認定に反する原告本人の供述は信用できない。

第三結論

以上によれば、本訴請求は、被告清水建設及び同昭英建築各自に対し一九七万六一五〇円、被告清水建設に対し右のほか八二万五〇〇〇円及びそれぞれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるが、その余はいずれも失当であり、反訴請求は理由がある。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官魚住庸夫 裁判官浜秀樹 裁判官伊藤繁)

別紙

別紙物件目録

那覇市松山二丁目一番地一一

家屋番号一番一一の二

一、鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付八階建店舗水槽室機械室建物一棟

床面積 一階 159.08平方メートル

二階ないし七階 各159.97平方メートル

八階 21.87平方メートル

地下一階 26.74平方メートル

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